言葉なき行為・芝居

遊戯空間サロンシアターVol.2

 

1995年11月22日~23日

なんでも小屋 NGOMA

 

作:サミュエル・ベケット

翻訳:安堂信也

         高橋康也 

演出:篠本賢一 

 

出演:「言葉なき行為」

   岡橋和彦(劇団民藝)

      

   「芝居」

   藤田三三三

   青木雪絵

   津田佳奈

 

協力:野崎章子、井上義幸、

   藤井巴艶、矢部謙次、

   橋本邦一


MEMO

『言葉なき行為』は天井からおりてくるバナナをまるで実験動物のように食べ続ける男の行為のみが描かれるが、天井の低いこの会場でそれを行うことは難しい。そこで男に座ったまま移動できる車に乗ってもらい、それを衣装で包んで不思議な存在感の人物にアレンジして上演した。バッハのヴァイオリン協奏曲の流れるなか、無機質な男の行為が人間の生の営みの無常観を浮かび上がらせた。『芝居』は、死後の世界ともいえるような闇の世界に、壺から顔を出しただけの男一人、女二人の言葉の断片が無限地獄のように繰り返される。あたかもそれは、死してもなお残存し続ける執着そのもののようだ。そこで語られるのは通俗的な男女不倫の述懐だけ。マチネ公演上演中、青木雪絵が過呼吸の発作におそわれ、途中から2人だけになるというアクシデントがあった。無理やり続けた上演後、壺の中にうずくまる青木雪絵を救急搬送したが、青木はその夜の公演には気丈に出演してみせた。照明は演出の篠本が舞台前方から懐中電灯で照らし出した。3人の言葉の断片が機械的に繰り返されるが、セリフの順番を完全に暗記しテンポよく暗闇の中で役者を照らし続ける作業は非常に困難だったが、30代の篠本の記憶力はまだそれを可能にした。演出にとっても俳優にとっても、さらに観客にとってもハードな作品だが、我々がベケットのメソードから大きな刺激を受けたことは間違いない。『言葉なき行為』は生の時を、『芝居』は死の時をモチーフにしているが、そこに共通するテーマは「無」であろう。『芝居』は2年後に再演することになる。


『言葉なき行為』イメージイラスト

『芝居』1997年、池袋での再演のもの。